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ウォッチブログを担当しています佐瀬雅晴です。いつもブログをご覧頂き、ありがとうございます!
1960年の誕生以来、数々の名作を生み出してきたグランドセイコーのブランドストーリーの後編です。
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年差クオーツで復活を遂げたグランドセイコー。1993年には究極のクオーツキャリバーを生み出します。
究極のクオーツ誕生へ
GS初のクオーツウォッチ誕生から5年後の1993年に、究極のクオーツキャリバーと呼ばれる9F83は完成しました。新たに搭載された主な機能は4つ。「バックラッシュオートアジャスト機構」、「ツインパルス制御モーター」、「瞬間日送り機構」、「スーパーシールドキャビン」が搭載され、グランドセイコーが考える腕時計の本質「正確さ」「美しさ」「見やすさ」そして「長く愛用でき」「使いやすいこと」を徹底的に追求したキャリバーです。
「バックラッシュオートアジャスト機構」
歯車間の「遊び」を強制的に極小化することで、秒針の動きをより美しく動かす機構のこと。輪列機構にひげぜんまいを組み込んだ歯車(制動車)を加えることで、バネの力で秒針の震えがなくなり、安定性が増しました。
「ツインパルス制御モーター」
グランドセイコーの特徴でもある太く堂々とした針を動かすために設けられた機構。1秒に1ステップ動く通常のクオーツに対して、9Fクオーツは1秒に2ステップ動きます。そうすることで、太い針でも動く軸トルクを増やすことができると同時に、省エネルギーも実現させました。なおこの2ステップの動きは肉眼では見えません。
「瞬間日送り機構」
9Fクオーツでは「日回し歯車」と連動する「瞬間日送りカム」と「瞬間日送りレバー」を採用。「日回し歯車」の回転に従って「瞬間日送りレバー」のばねを次第にたわめて力を蓄え、カムの回転がある位置に来ると、ばねが瞬間的に解放されて、日付表示が瞬時に切り替わるという仕組みです。トルクの強い機械式時計では前例のある瞬間日送りカレンダーですが、クオーツ式時計への搭載を実現したのはグランドセイコーが初めてです。
「スーパーシールドキャビン」
輪列や電子部分の気密性を高め、ちりやほこりなどから守るための機構です。高い補油性も備えており、電池交換時のリスクも軽減してくれます。グランドセイコーの電池交換時に、たびたび私たちもみますが、キャビンには非常に美しいコート・ド・ジュネーブが施されています。
1993年「9F8シリーズ」
「クオーツを超えたクオーツ」。従来のクオーツでは実現できなかった上記4つをはじめとする様々な新機能が搭載された
2002年「9F6シリーズ」
上質と品格を併せ持つ、グランドセイコーを代表する人気モデル。群を抜く装着感に加えて、細部まで徹底した作り込みが行われているのが特徴。
機械式グランドセイコーの復活
クオーツショック以降、「時計といえばクオーツ」という流れがとまらなかった90年代。機械式時計の愛好家らの声が次第に高まりを見せ、スイス製腕時計を中心に機械式時計復活の機運が高まっていました。1990年代半ばにグランドセイコーも機械式時計の復活を決意しますが、1970年の「61GSスペシャル」発売以来20年以上のブランクがあるグランドセイコーにとって、復活の道のりはたやすいものではありませんでした。
当初は、元々製造していたムーブメントをベースに改良を加えることで、容易と考えられていた機械式グランドセイコーの復活。しかし、実際のところグランドセイコーに求められる精度を満たすことは不可能ということが判明したのです。そこで、完全なる新規設計に着手することを決断しましたが、かつてのセイコーを支えた熟練技術者は既に引退しており、製造技術を継承できる状態ではありませんでした。当時の設計者はOBを訪ね歩いてアドバイスをもらい、偉大な技術者から受け継いだ経験と理論によるシミュレーションを繰り返し、サンプルを作成しては、実測試験を行う日々が続きました。
そして、1996年、COSC(de Controle Official Suisse Chronometres) スイス公認クロノメーター検定協会の精度検定に挑戦し、結果としては50個全てが基準を満たし、念願の機械式グランドセイコー復活への道が開けました。かつて受け継がれてきていた「クロノメーターを越える精度こそがグランドセイコーの精度である」というプライドを受け継ぎ、さらに高い精度規格を目指すべく制定されたのが「新GS規格」でした。スイス・クロノメーター規格を越える新たなグランドセイコー規格として制定されたこの独自の厳しい規格は、今でも遵守されています。
1998年「9S5シリーズ」
新GS規格のもと、復活を果たした機械式グランドセイコー第一号モデル。
2002年「9S56シリーズ」
グランドセイコーの歴史の中で初めて、時分秒針以外の「4本目の針」を搭載。
2003年「強化耐磁シリーズ」
クオーツでありながら40,000A/mの耐磁性能を持つ強化耐磁シリーズ。
第3のムーブメントの登場~スプリングドライブ~
第3のムーブメント“スプリングドライブ”が誕生したのは1999年のことでした。1970年代後半から機械式時計とクオーツ式時計の技術を融合したキャリバーの構想はあり、自動巻きのローターを使って充電用電池を充電して動かす「キネティック(オートクオーツ)」など蓄電池式で実現されることはありました。
蓄電池を使用しているキネティックとは異なり、スプリングドライブはぜんまいを動力源としてローターを回転させ、その運動エネルギーを電気エネルギーに変換して、そのわずかな発電で水晶振動子を駆動します。クオーツ式の精度、機械式を超えるスムーズなスイープ運針、そして日差15秒の精度と今までの常識を覆すスプリングドライブムーブメントでしたが、グランドセイコーに搭載されるまでにはさらに4年の月日が必要でした。効率の良い自動巻機構と72時間パワーリザーブの実現なくして、グランドセイコーの冠を付すことはできないと考えられたため、かつて自社で独自に開発し、今や世界中がスタンダードと認める「マジックレバー方式」を採用することで格段に巻き上げ効率をアップさせ、駆動時間は手巻式の48時間から、自動巻72時間へと機能改善されました。
2004年、満を持してグランドセイコー初のスプリングドライブ「キャリバー9R65」を搭載したモデルが発表されました。多くの技術者にとって「夢」であったこの機構は、世界中の時計メーカーや時計師らを驚愕させることとなりました。
2004年「9R6シリーズ」
ぜんまいのほどける力を水晶振動子が正確に制御する独創の機構、自動巻スプリングドライブを搭載した初のモデル。
2007年「9R8シリーズ」
ぜんまいで駆動するクロノグラフの中で、最も正確で信頼性の高いクロノグラフを作りたいという思いから開発されたグランドセイコー初のクロノグラフ。
SEIKOブランドからの独立
「腕時計の世界最高峰」を目指し、高精度と実用性をひたむきに追求し続け、その理想を満たす腕時計を生み出してきたグランドセイコーは、2017年、新たな境地をひらくべく、セイコーから独立した新生ブランドとして、セイコーとは異なる高みを目指して挑戦を続けることを表明しました。今もなお、技術革新を続けながら、日本ならではの美しさと品格をあわせ持つ、バリエーション豊かな腕時計を生み出し続けています。